ノアで生まれたスナネコのテレビ出演について
「行列のできる法律相談所」にノアで生まれたスナネコが出演した際に、
私の「将来的に一般の方の飼育も視野に」という発言と
「その場合の価格は300万円ほど」という発言が
多くの視聴者の方に不快な思いをさせてしまったようですが
自然界での生息数が減少傾向にある「スナネコが飼育下で順調に繁殖できて
ペットとしての適性が確認されれば」という前提での発言でした。
確かに稀少な野生動物 → 繁殖 → 販売 という流れで見ると
「稀少な野生種を繁殖して金儲けしようとしている」と捉える方もいらっしゃるようですが、
一部の方もご指摘のようにまだ飼育例のそれほど多くない動物を施設内で健康に、
ストレス少なく飼育することは容易ではありませんし、ましてや飼育下で繁殖まで
たどり着くのはなお難しいといえます。
出演した個体は弊社が2019年の5月にワシントン条約の正規手続きを経て輸入した
若い個体が無事ペアリングして2020年の5月15日に3頭産んだうちの1頭です。
輸入が実現した当初はまずそれぞれの個体を単独飼育で観察し、食餌・排泄などの
基本的な生理を注視しながら飼育管理していきました。
その間少しずつ飼育者である人間が周囲にいることに慣らし、掃除や給餌の際に
距離が近くなることに慣らし、反応を見ながら少しずつ触れるようにした結果、
メグと名づけたメスが触られることを受け入れてくれるようになり、輸入から3ヶ月ほどで
自ら撫でられに近寄ってくれるところまで来ました。
この時点でやっとスナネコに過度のストレスをかけずに皆さんにお見せできると判断し
隠れられる小屋巣箱も設置したうえで、オス・メス交代で公開を始めました。
今年に入ってそれぞれが展示スペースに慣れたのでオス(レオ)がいる時に
メス(メグ)を入れたら問題なく受け入れられました。
その後しばらくペアで仲良くしていましたが3月ごろからメス(メグ)がオス(レオ)の
接近を避けるような仕草をし始めたので、妊娠の可能性を疑い、メグをオフィスに用意した
落着ける環境に移し、夢のまた夢のような状況にワクワクしながら、世界中のスナネコ繁殖に
関するデータを漁るように探しました。
すると以下のような記述があり、動物園での繁殖後の子猫の死亡率の高さに驚愕し、
そのほとんどが初産の母猫による育児放棄だと知りました;
Of 228 sand cats born in zoos globally by 2007, only 61% of the kittens lived to day 30.
They died primarily due to maternal neglect by first-time mothers.
They can live up to 13 years in captivity.
ストレスを与えないように恐る恐る観察していると乳首が目立ち始め、お腹回りが張ってきて
妊娠の兆候が徐々に明らかになってきました。 驚いたことに妊娠中のメグは私に気付くと
近寄ってきて頭を撫でてポーズをとったので、その後も近寄って掃除・給餌・観察をする際は
頭を撫でるようにしました。
そしてついに5月15日、初産のメグが無事3匹の小さな子猫を出産しました。
イエネコの出産であれば子猫の体拭きなど介助をする場合もあるのですが、
動物園での育児放棄などのデータが頭を離れなかったので、赤ちゃんに触るどころか
なるべく刺激しないように気を付け、近寄ってきたメグを左手で撫でながら、
右手のスマホで赤ちゃんの撮影に挑むのが精一杯でした。
これまでの経緯はYouTubeのノアチャンネルでもご紹介しています。
そしてなんと初産のメグが育児放棄することなく、無事3匹の赤ちゃんが離乳食を食べ始める
生後3か月までしっかり授乳し健康に育て上げてくれて、現在に至りました。

なるべくストレスをかけないように飼育するという動物園的要素と、飼育下でなるべく馴らそうとする
ペットショップ的要素が、メグの場合は育児放棄しないという好結果に繋がったのかもしれません。
万が一の際には人工哺育という心の準備もしていたのですが、専用のワクチンが開発されていない種
に関しては母親の初乳や母乳からの抗体移行など抵抗力の移行が望ましいので本当によかったです。
飼育下で繁殖した3匹の子猫ちゃんたちは生まれた時から人間を見ているので、人間が傍にいる
ことにそれほど違和感を持っているようには見えませんし、掃除や給餌の際にじゃれついてくるほどです。
なるべく多くの皆様にこの素晴らしいスナネコの魅力を知っていただきたいと思い、
弊社施設内の展示やメディアでの映像配信など、今後も続けていきたいと思います。
ノアではそれぞれの動物の特性を理解して、条件が合えば飼育の可能性も視野に入れる
というコンセプトで哺乳類・鳥類・爬虫類など様々な動物の魅力をご紹介していますが、
どの動物に関しても繁殖・販売による安易な気持ちでの飼育を助長するつもりはない
ということをご理解いただければ幸いです。
自らも動物の1種に過ぎない人間として今後も他の動物たちとの共生の在り方を
模索し続けると思いますが、お気づきの点等ございましたらご指摘ください。。